生き生きマニフェスト
懸田剛が XP祭り2023 で提唱したアジャイルマニフェストの 22 年後の更新案——「生き生きとした世界」を生み出すためのマニフェスト案。
このページは、Takeshi 自身が定期的に立ち戻り、自分の現在地を確かめるための場としても用いる。 「案」であり「仮」であるのは、固定するためではなく、常に問いとして開いておくため。
初出:アジャイルマニフェストの これまでと、これから(XP祭り2023, 2023-09-30, 副題「〜『生き生きした世界』を生み出すために必要なこと〜」)
歴史的・思想的位置づけは agile-manifesto を参照。
「生き生きとした世界」とは
このマニフェスト案が向かう先:
- 人々が「生き生き」している ── 自分らしくいられる状態
- 「人間理解のパラダイム」をベース ── 個人ごとの違いやパーソナリティ、心の特性の理解(→ human-understanding)
- すべての存在に価値があり、大切に扱われる ── 存在の尊厳(Dignity)
- 全体性(→ wholeness)
「生き生き」は単なる元気さや活発さではなく、生命の質 ── アレグザンダーが「客観的物差し」として位置づけた、「いまここにあるもの」が充実して輝く感覚を指す。
4つの価値
個人と相互作用より、多様性と人への共感
動くソフトウェアより、満たされた・満たしたいニーズ
顧客との協調より、関係者の巻き込みと共創
変化に対応するより、願っている未来の創造
原典の右側を否定するのではなく、その先に置く。含んで超える(成人発達理論)。
各項目の意図
1. 個人と相互作用より、多様性と人への共感
これからますます「共感」が鍵になる(予言)。
- 共感型のリーダーシップ
- 個の多様性の理解 ── それぞれの個性、どう活かすか?
- 顧客・利用者・関係者への共感
- そして何より、自分自身への共感
- なにより、自分自身に共感できていない人が多い → 「自分に共感するところから始める」
「共感できない」のは、自分に共感できていないから
「個人と相互作用」が個と個の間の関係に焦点を置いていたのに対し、ここでは 個の固有性(多様性)と、その固有性を理解する内的能力(共感) に踏み込む。
接続:empathy(認識様式としての共感) / diversity(生物多様性と人間多様性の不可分性) / self-understanding(自己理解の層) / process-communication-model / personality-adaptations
2. 動くソフトウェアより、満たされた・満たしたいニーズ
「動く」だけでは足りない。動いた結果として 誰のどんなニーズが満たされたか が問われる。
- 潜在的ニーズを掴めているかどうかが大事
- どんなニーズが隠れているのか?
- 明らかになっているか?
- 検証できているか?
- ニーズを満たせているかを大事に
- 満たせるか?満たそうとしているか?
- 無自覚なニーズを一緒に探索する
「動くソフトウェア」が進捗の尺度として機能したように、「満たされたニーズ」を新しい尺度として提案する。
接続:nvc(ニーズの言語化) / teineina-hatten(ニーズとサティスファイヤー) / mental-model(無自覚なニーズの構造)
3. 顧客との協調より、関係者の巻き込みと共創
「顧客」という二項関係から、関係者全体への巻き込みへと拡張する。共創の時代。
- まずは巻き込みから(招き入れる)
- 関係者の「当事者意識」を醸成する
- 「全員で創っている」感
- 顧客も創るプロセスから参加する
「協調」では顧客と開発者が分離されていた。「巻き込みと共創」では境界が溶け、全員が創る側にまわる。これは 参与的認識の相互補完——専門家の知と利用者の知が、互いに必要なものとして合流する構造。
接続:participatory-knowing / participatory-knowing-complementarity / unfolding(内側から開く組織論) / hosoi-hisae(東野高校での「巻き込み」の橋渡し役)
4. 変化に対応するより、願っている未来の創造
最も深い項目。変化は受け取るものではなく、自ら生み出すもの。
- 変化に「対応する」のではなく、「願う未来」を自分で作る
- 2種類の「変化を作る」を見極める:
「恐れ」を自覚し、勇気を持って「願い」に向かう。
これは Hawkins の意識のマップにおける 200・勇気 ── フォース領域からパワー領域への閾値そのもの。「ない」への反応ではなく「ある」への応答(→ inochi-no-negai)。
接続:inochi-no-negai / david-hawkins / self-separation / felt-state-pattern(Armor から「ありたい」への転換)
「含んで超える」入れ子構造
[ プロセス・ツール / ドキュメント / 契約 / 計画 ] 原典の左側
↓ 含んで超える(個人を尺度の中心に)
[ 個人と相互作用 / 動くソフトウェア / 顧客との協調 / 変更に対応する ] 原典の右側
↓ 含んで超える(生命の質を尺度の中心に)
[ 多様性と人への共感 / 満たされたニーズ / 巻き込みと共創 / 願う未来の創造 ] 生き生き案
各層は次の層を否定しない。前の層を内包しながら、その先の地平を指し示す。これはマニフェスト更新で本当に重要なこと——「過去を否定するのでなく、これまでを含め越えていく」——の構造的実装でもある。
自分への問いとして読む
このマニフェストは、宣言として固定するためのものではなく、自分の現在地を測る問いとして機能させたい。週に一度、月に一度、立ち戻って自問する:
1. 多様性と人への共感
- いま自分は、目の前の人の 固有性 を見ているか? それとも自分のフレームに当てはめているか?
- 自分自身の いまの感情・状態 に共感できているか?
- 「共感できない」と感じる相手に対して、自分のどの部分が共感できていない のか?
2. 満たされた・満たしたいニーズ
- 今やっている仕事は、誰の・どんなニーズ を満たそうとしているか?
- そのニーズは、自覚されたものか、無自覚なものか?
- 自分自身の 満たされていないニーズ を見ているか?
3. 関係者の巻き込みと共創
- いま進めていることに、当事者として参加すべき誰か が外されていないか?
- 「協調」止まりで「共創」になっていない関係はないか?
- 自分は 巻き込まれる側に立つ勇気 を持てているか?
4. 願っている未来の創造
- いまの行動は 「恐れの回避」 か、「願いの実現」 か?
- 自分の「願う未来」を、自分の言葉で語れているか?
- 勇気が足りない場面で、何を恐れているのか?
慎重さ/開かれた案として
Takeshi 自身は「マニフェスト更新で本当に重要なのは中身ではなく 生み出すプロセス だ」と強調する。この案も、完成されたものとして提出するのではなく、各現場で同種の問いを起こすための触媒として位置づけられる。
時代を作っている人たちが集まり、新しいマニフェストが創発されることが重要(果たしてされるのかな?)
スライド末尾の「現場でやってみるといいかもしれないこと」も、案を採用させるのではなく、各現場で次の問いを起こすための投げかけ:
- 「含んで超える」なら、今の時代は何を大事にしたい?
- アジャイルマニフェストの問いに対して考えてみる
- マニフェストの左と右、どの程度大事にしている?
- ドメインごとに分けるなら?まとめるなら?
関連ページ
- agile-manifesto — アジャイルマニフェスト:歴史的経緯・本質・既存改訂案レビュー(Kent Beck 2010 / Majkic 2023 / Agile2 2020)
- human-understanding — 人間理解:このマニフェストの認識論的基盤
- empathy — 共感:第1項目の核
- diversity — 多様性:第1項目の根
- inochi-no-negai — いのちの願い:第4項目「願う未来の創造」の根
- self-separation — 自己分離:「恐れの回避」としての無自覚な創造の機構
- david-hawkins — フォース vs パワー:「恐れ」と「勇気」の閾値
- participatory-knowing-complementarity — 参与的認識の相互補完:第3項目「巻き込みと共創」の構造
- unfolding — 展開:「願う未来の創造」が指す「内側から開く」プロセス
- wholeness / quality-of-life — 全体性・生命の質:「生き生きとした世界」が指す状態
- values-principles-practices — 価値・原則・実践:マニフェストの構造的位置
- ga-shu-ha-ri — 我守破離:マニフェストをどう「守」として扱うか