細井久栄

役割: 盈進学園東野高等学校 施主側プロジェクト責任者(理事)
著書: 小さな美しい村 (2025年、監修:懸田剛)

概要

1978年〜1985年の盈進学園東野高等学校キャンパス建設プロジェクトを施主側で主導した人物。クリストファー・アレグザンダーのパートナーとして、System A(感性・生命の質)とSystem B(効率・合理性)の統合を実現した。

src-small-beautiful-village は、細井氏がこのプロジェクトを施主の視点から記録した回想録(2025年出版)。娘・編集、孫・写真撮影という親子三代の仕事の結晶。

プロジェクトの発端

  • 手狭になった校舎の建て替えの責任者として任命
  • 国内外の学校・建築物を数十カ所、見学して回った
  • 100冊以上の建築家の書籍を読み漁った
  • 当初はRC造高層校舎をイメージしていたが、ある学校に出会い構想が変化
  • 「伝統的な手法(大工が施主と話しながら建築を進める)で作りたい」→ 国内建築家にことごとく断られる
  • 偶然『オレゴン大学の実験』(アレグザンダー著)を読み「これだ!」→ CESへのアプローチへ

「細井さんのここがすごい」

Takeshiが講演スライドで挙げた3点(Agile Tour Yokohama 2025 より):

  1. ブレない自分軸、行動力
  2. 権限移譲、合意形成力
  3. 困難に立ち向かう勇気・楽観性・戦略

Alexanderは The Battle Chapter 14 で次のように述べている:

“細井は勇敢な人物です。今日に至るまで、彼は脅迫や暴力に屈しなかったと主張しています。彼の勇気があったからこそ、私とハイヨ、そして細井自身が『こうでなければならない』と感じていた方法で、私たちはキャンパスを築き上げることができたのです。” — Christopher Alexander, The Battle Chapter 14

感性と合理性の対立への戦略

細井さんの戦略:「同じ土俵で戦わない」豆寄席2025スライド より)

“感性を抜きにして、合理の次元で議論をすれば、木に勝ち目がないのは、窓のサッシュの場合と同じ”

合理の土俵では感性は負ける——だからこそ、合理の枠外で感性の実現可能性を切り開く姿勢を貫いた。

この戦略の認識論的根拠として、懸田は 感じの実存 との接続を見出している。細井氏自身の言葉は「感性は実態のある現実のもの(形而上学ではない)」であり、「実存」という語は使わない。ただし、感じを合理性によって証明しようとするのではなく、感じをそのまま起点に置いて判断を組み立てた姿勢は、「感じの実存」が記述する認識論的立場と一致する。(「感じの実存」という定式化は懸田自身による解釈)

System A/B の橋渡し役として

system-a-b-integration において、amalgam(融合体)の実現に最も決定的な貢献をした個人。アレグザンダーもフジタも、それぞれ System A・System B の側から関わったが、細井氏はその中間に立ち、双方の価値を認めながら均衡を取った。

木造体育館の「土下座」

プロジェクト最大の対立点:

  • アレグザンダー(System A): 木造体育館を主張
  • フジタ(System B): 「戦後25年、大型木造建築は一例もない。リスク・工期が確保できない」と拒否

細井氏は、フジタに対して「土下座」して木造での実現を依頼した。これはSystem Aの価値(木造・生命の質)を守りながら、System Bの最大の懸念(リスクの責任)を自ら引き受ける行為だった。

結果:両者の協力による木造体育館の完成(1985年当時「戦後最大の木造建築物」)。

Mixed contract の発案

General Contractor契約 + Memorandum of Agreement(覚書)の二重契約構造を発案。Memorandumにより:

  • 日常的な設計修正の権限をCESが確保
  • モックアップ制作・週6〜7日のオンサイト確認が可能に

これはAlexanderの未発表原稿でもamalgam成功の主要因として挙げられている(→ src-battle-unpublished-chapter)。

役割の本質

細井氏は、プロジェクト責任者として「System A」のビジョンを掲げながら、同時に学園理事として期間内完了・生徒募集・学校経営という System B の要求にも応え続けた。

この二重の責務の中でAのビジョンを守り抜いたことが、amalgamの構造的条件だったと考えられる。

アレグザンダーのような A 側の旗手だけでは統合は起きない。B 側の能力を尊重しながら A の価値を手放さない「橋渡し役」の存在が、最も希少で最も決定的な要因である。(Takeshiによる考察)

「細井さんなら、どうするだろう?」——40年前の日本で、近代合理性の真っ只中で。(Agile Tour Yokohama 2025 より)

関連ページ

関連 docswell スライド(細井久栄氏への言及あり)