野中郁次郎(1935–2025)

一橋大学名誉教授。「知識創造理論」および「SECIモデル」で世界的に知られる経営学者。ポランニーの暗黙知概念を組織論に展開した。

SECIモデル

暗黙知と形式知の相互変換による知識創造の4プロセス:

フェーズ変換内容
Socialization(共同化)暗黙知→暗黙知経験の共有・身体での学び(徒弟制・OJT)
Externalization(表出化)暗黙知→形式知メタファー・アナロジーで言語化
Combination(連結化)形式知→形式知既存知識の組み合わせ・体系化
Internalization(内面化)形式知→暗黙知実践による身体化(守破離の「守」)

ポランニーとの関係

SECIモデルの理論的基盤はポランニーの暗黙知。ただし野中のモデルへの批判としてScrapboxに記録されている重要な指摘がある:

「暗黙知から形式知へ」って SECIモデルをもじって簡単に言うけど、そんなに簡単じゃないよというのが言いたい。言葉で表現できるものはわずかであり、その限界をわかった上でなおも表出化・形式化しようとする努力・プロセスに意味がある。単に文章にしただけで「形式知化」というのは浅すぎるにもほどがある。

これはポランニー自身の立場(「語れることより多くを知っている」)に忠実な批判。

「直観の経営」と現象学

著書『直観の経営 — 「共感の哲学」で読み解く動態経営論』は現象学者・山口一郎との共著。現象学(フッサール・ハイデガー的な「志向性」「間主観性」)と知識経営論を接続した試み。これはボルフトがゲーテ現象学とアレグザンダーを接続した構造と平行している。

形式知の限界:Scrapbox記録

「そもそも本を読んで理解しようというのおかしくて、理解したいのなら実践してみないとダメなんですよ。本に書かれている形式知は、あくまでも実践のための門にしか過ぎない。本を読んでわかった気になるのは、入り口の前に立って『この建物は素晴らしかった』と呼ぶようなもの。」

「形式知のおかげで、その建物の門の前までは来れるから、そこから門をくぐって実際に入り、中を回って五感で体験して、はじめて『わかった』と身体知として染み込むのではなかろうか。」

「場(Ba)」の概念

野中はSECIモデルに加え、知識創造が起きる文脈・空間を「場(Ba)」と呼んだ。これはアレグザンダーの「センター」「生きた構造」が生まれる場の概念と響き合う。

note記事「野中郁次郎氏の訃報について思うこと」(2025-02-03)

野中逝去に際して書いたnote記事に、知的系譜が明確に記録されている:

  • スクラムとの接続:スクラムの源流論文 “New New Product Development Game” の著者として最初に認知。「スクラムって日本が源流なの?」という驚き。
  • 認知言語学への橋:『知識創造の方法論』(紺野登との共著)がレイコフの『レトリックと人生』『認知意味論』への道を開いた。メタファー・アナロジーを通じた「暗黙知の言語化」の探求。
  • 身体知への共鳴

「この10年くらい、自分は『暗黙知』と言われていた言語化される前の知を『身体知』という形で、実際の身体の動きを始めとした身体性を追求する中で重要視してきた。そして、これまで言われていた『暗黙知ー形式知』というSECIモデルのプロセスが、一般に思われている以上に大変困難であること、それを越えるためには身体や無意識とつながることの重要性を追求してきた。機せずして、野中先生も身体知を中心とした昨今の考えは非常に共感できるものであった。」

src-note-kkd に全文あり。

関連ページ

  • michael-polanyi — SECIモデルの理論的源泉
  • u-theory — 組織における知識創造・変革という共通テーマ
  • shu-ha-ri — S(共同化)→I(内面化)の循環が守破離と構造的に対応
  • henri-bortoft — 現象学との接続(直観の経営)が共鳴
  • wholeness — 「場」概念とアレグザンダーの生きた全体性
  • organization-development — 組織開発:知識創造企業が組織論の知的基盤として位置づけられる

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