父の十訓
宮本常一 が故郷の山口県・周防大島から大阪の職工学校へ出発する際に父から伝えられた心得。(『民俗学の旅』 P.36-38)
十訓
-
汽車に乗ったら窓の外をよく見よ。 田畑の様子・家の造り・駅の荷・人の服装から、土地の豊かさと働き方がわかる。
-
村でも町でも、まず高いところへ上がれ。 方向を知り、目立つものを見よ。山の上で目をひいたものがあれば、そこへ必ず行くこと。高いところでよく見ておけば道に迷わない。
-
金があれば、その土地の名物・料理を食べよ。 土地の暮らしの高さがわかる。
-
時間のゆとりがあれば、できるだけ歩いてみよ。 歩くことでいろいろを教えられる。
-
金はもうけるより使うほうが難しい。 それだけは忘れずに。
-
思うように勉強させてやれないから、何も注文しない。好きにやれ。 ただし身体を大切に。30歳まではおまえを勘当したつもりでいる。
-
病気になったり、自分で解決のつかないことがあれば、郷里へ戻れ。 親はいつでも待っている。
-
これからは子が親に孝行する時代ではなく、親が子に孝行する時代だ。 そうしないと世の中はよくならない。
-
自分でよいと思ったことはやってみよ。 失敗しても親は責めない。
-
人の見のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大事なものがあるはずだ。 あせることはない。自分のえらんだ道をしっかり歩いていくことだ。
第10訓の重み
第10訓は、宮本常一 が後の民俗学的フィールドワークを貫く姿勢の核となった言葉。
渋沢敬三から送られた言葉「大事なことは主流にならぬことだ」とも深く重なる(→ 傍流)。
人の見のこしたものを見るようにせよ。その中にいつも大事なものがあるはずだ。
参与的認識としての観察
第1訓・第2訓・第4訓は、参与的認識 の実践的手引きとして読める:
- 外から眺めるのではなく、その土地に入り込んで感受する
- 高所から地形全体を把握し、歩いて細部を体感する
- 「見る・食べる・歩く」という身体的参与による理解
構造保存変容 においてアレグザンダーが「20センチコンターの測量図を要求し、粘土で敷地模型を作った」姿勢と同型。
関連ページ
- miyamoto-tsuneichi — 宮本常一:民俗学者・フィールドワークの実践者
- boryu — 傍流:「人の見のこしたものを見る」精神の継承
- participatory-knowing-complementarity — 参与的認識:土地・人・文化への参与的理解
- structure-preserving-transformation — 構造保存変容:土地の声を聞く実践
- zoka — 造化:自然への参与的態度